かなり前から気になっていた、生命保険のカラクリ
この本はライフネット生命の社長、出版された当時は副社長だった著者の岩瀬さんが、生命保険の仕組み、生命保険会社の内部事情、賢い生命保険の選び方などを、わかりやすく解説しております。
個人的にもっとも興味をひかれたのは、この本が出版された平成21年(2009年)以降に、生命保険業界や生命保険ビジネスがどうなっていくのかを、著者の岩瀬さんが予想している部分です。
例えばタバコを吸わない方は、吸う方よりも保険料が安くなる、リスク細分型の生命保険が普及していくと予想しておりますが、確かにその通りになっていると思います。
またインターネットが普及していけば、消費者が生命保険に関する知識や情報、特に手数料に関する知識や情報を、以前よりも多く身に付けるようになります。
その結果として手数料に見合ったサービスなどを提供できない生命保険会社は、消費者から選ばれなくなるため、手数料が安くなると予想しておりますが、具体的には次のように記載されております。
『これから生保業界はどうなっていくのだろうか。現状がどうであれ、売り手である保険会社と買い手である国民との間に、大きな情報格差があることを前提としてきた既存のビジネスモデルでは、この先立ち行かないだろう。
インターネットやブロードバンドの普及による新しい情報化の流れは、ひとりひとりの消費者に多くの知識と情報を与え、個人が企業と対等に向き合う力をつける。
これからは、消費者の理解不足に頼った価格設定ではなく、対価にみあった付加価値を提供しなければ、淘汰されていくだろう。
具体的には、保険会社の手数料にあたる「付加保険料」を引き下げる方向へ向かうだろうと予想される』
以上のようになりますが、生命保険の契約者が支払う保険料は、保険金の支払いのために使われる「純保険料」と、生命保険会社の経費のために使われる、「付加保険料」で構成されております。
この本が出版される前にライフネット生命は、生命保険業界ではタブーとされてきた、付加保険料の比率を公開して話題になりました。
おそらくネット専業の生命保険会社であるライフネット生命は、営業職員の人件費などが他社よりも少ないため、付加保険料の比率の低さに自信があったのだと思います。
著者の岩瀬さんは上記にように付加保険料が、引き下げる方向へ向かうと予想しておりますが、ライフネット生命に追随して、付加保険料の比率を公開する生命保険会社は、今のところ現れておりません。
そのためこの予想が当たったのか否かは、残念ながら判別できない状態なのです。
また著者の岩瀬さんの予想が、外れたと感じさせる次のような文章が、生命保険のカラクリ
『インターネットの普及による情報革命も、生命保険ビジネスのありようを根本的に変えつつある。
売り手と買い手の間の情報の格差によって生み出されていた保険会社の利潤が、どんどん小さくなり、消費者は賢く、合理的になっていく。
金融分野では投資信託を中心に、消費者の間で手数料に対する関心と感度が高まっている。
突き詰めて考えると、どこか一社の商品がずば抜けて「得」ということではなく、十分に効率的な市場の下では、金融商品を差別化する要素は、手数料と税金しかない。
従来は必ずしもあたり前ではなかったそのような知識も、ネットの普及などにより、消費者に少しずつ常識となりつつある』
以上のようになりますが、予想が外れたと考える理由としては、販売手数料が非常に高い外貨建て保険が、現在でも売れているからです。
金融庁は高額な販売手数料を得るため、銀行などが顧客ニーズを無視して、外貨建て保険を販売していると考え、消費者を保護するために、販売手数料の開示を求めました。
こういった販売手数料に関する情報や、外貨建て保険は将来の為替相場によっては元本割れする可能性があるという情報は、インターネットで検索すればすぐに見つかります。
ですからインターネットを活用すれば、消費者は合理的な行動が簡単にできるのですが、このように販売手数料で損して、将来的に元本割れするかもしれない外貨建て保険を購入するという、不合理な行動をしているのです。
まったく理解できないのですが、生命保険のカラクリ
『かけ捨て型の医療保険と、保険料を上乗せする代わりに、無事故で生存していた場合に事後的に「健康ボーナス」という形で保険料を返す、という二通りの保険を消費者テストで見せた。
たとえば、保険料を10万円払って保障のみを確保する保険と、保険料を20万円支払って、無事に満期を迎えたら10万円が払い戻される保険をイメージすればいい…(中略)…
お金の出入りだけでみれば、両者の間に損か得かはないことはすぐにわかるだろう。後者は、自分が多めに払い込んだお金を、後から返してもらっているだけだ。
むしろ、期間中にそのお金は使えないし、保険事故にあったり、亡くなった場合には払い込んだ保険料の部分は返却されないので、かえって不利だとも考えられる…(中略)…
結果は5対95。すなわちほとんどの人が、「あとから10万円もらえるほうがお得と感じた」と答えたのである。
消費者が必ずしも経済合理性だけで動かないことについては、「行動経済学」という分野で研究が進んでいるが、生命保険の分野では、このような「ボーナス」というものの不合理な人気の高さがその一つのあらわれだろう』
以上のようになりますが、つまり消費者は経済合理性だけで行動していないため、損をする可能性の高い外貨建て保険を購入するという、不合理な行動をするのです。
そのため金融商品を購入する前には、合理的に考えて損をする行動をしていないのかを、冷静に分析した方が良いと思うのです。