2012年08月22日

病名を知らなかった場合と告知義務違反

生命保険の契約を締結する際に、保険契約者または被保険者(7月18日のブログを参照)は保険会社に対して、病歴や健康状態など重要な事項について、事実を告げなければなりませんが、これを「告知義務」と言います。

告知義務違反になると契約時に遡って、生命保険の契約が解除されてしまいますが、このような場合には支払った保険料は還付されませんし、保険金がすでに支払われていた場合には、保険会社から保険金の返還を請求されます。

また告知義務違反が成立するためには「重要な事実」についての不告知、または「重要な事項」についての不実告知があり(客観的要件)、かつそれが保険契約者および被保険者の悪意、または重過失によるものでなければなりません(主観的要件)。

※以下では「重要な事実」と「重要な事項」を併せて、「重要事実」と記述します。

この悪意とはある事実の存在および、その重要性を認識しつつもあえて黙秘し、または虚偽の事実を告げた場合に認められます。

また重過失とはある事実を知りながら、それが重要な事実であって、告知しなければならない事を、著しい不注意によって知らなかった場合に認められます。

ところでAさんという方が腹部に痛みを感じ、医療機関で精密検査を受けたところ、胃部に異常があると告げられました。

しかしその後は痛みのない日が多かったので、Aさんは生命保険に加入する際に自覚症状、精密検査を受けた事実、診断結果などを告知しませんでした。

生命保険の契約が成立してから数ヶ月後に、Aさんは胃ガンで死亡しましたが、Aさんが精密検査を受けた医療機関の医師は、Aさんが末期の胃ガンである事を知っていたのですが、精神的なショックを与えないため、病名は告知しておりませんでした。

つまりAさんは病名を全く知らなかったのですが、このAさんは告知義務違反になるのでしょうか?

冒頭で告知義務違反が成立するためには客観的要件と、主観的要件が必要と記載しましたが、客観的要件が成立するためには重要事実の不告知、または不実告知が必要になります。

その重要事実とは危険測定に必要な事実であり、保険会社がその事実を知ったならば保険契約の締結を拒絶したか、少なくとも同一条件では契約を締結しなかったであろうと、考えられる事情を意味します。

Aさんは本当の病名を知りませんでしたが、腹部の痛みと胃部に異常があるという精密検査の結果は知っており、この事実を保険会社がAさんから聞いて知っていたら、保険契約の締結を拒絶したか、少なくとも同一条件では契約を締結しなかったであろうと考えられます。

ですから客観的要件は成立するのですが、Aさんは本当の病名を知らなかったので、悪意または重過失は認められず、主観的要件は成立しません。

しかし保険会社が通常使用している告知書には、「現在を含め最近3ヶ月以内に、医師の診察・検査・治療・投薬を受けましたか」との記載があり、告知書に記載されている事項は一般的に、すべて重要事実と推定されます。

ですから精密検査を受けた事実を告知しなかったAさんは、この点から告知義務違反になる可能性が高いのです。

以上のようになりますが重要事実に該当すると認められた判例と、重要事実に該当しないと認められた判例を例示しますと、次のようになります。

【重要事実に該当すると認められた判例】
躁うつ病と診断され、その後も診察および投薬を受けていた事実は重要事実にあたるとされた事例

・アルコール依存症のため入院していたが、その入院の事実が重要事実にあたるとされた事例

・咽頭炎・咳などが繰り返し現れ、度重なる投薬を受けても改善せず、継続的な通院加療を要した場合、その投薬および通院加療の事実は重要事実にあたるとされた事例

・ガン患者が真の病気を知らされなくとも自覚症状、入通院歴の事実が重要事実とされた事例

・年齢を偽った場合、その年齢が重要事実であるとされた事例

【重要事実に該当しないと認められた判例】
・被保険者が白血病で死亡したが、口内炎・低血圧症により受診していた場合、その受診の事実は重要事実ではないとされた事例

生命に関する危険測定に関係ない職業が詐称された場合、職業は重要事実ではないとされた事例

以上のように重要事実に該当しないと認められた判例は、ほとんどありませんので、Aさんのように重要事実に該当するか否かを勝手に判断せず、告知書にはありのままを記入しましょう。
posted by FPきむ at 20:27 | 生命保険に加入した後に | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月19日

交通事故と生命保険の死亡保険金

生命保険の被保険者が交通事故で死亡した場合、その被保険者(7月18日のブログを参照)の遺族は加害者に対して、損害賠償を請求する事になりますが、その遺族が損害賠償よりも先に保険会社から、死亡保険金を受け取っていたとします。

このような場合に死亡保険金として遺族が受け取った分は、損害賠償額から控除できると、加害者が主張する可能性があるかもしれませんが、これは法的に正しい主張なのでしょうか?

例えば損害賠償額が1億と算定され、保険会社から既に死亡保険金を3千万円受け取っていた場合に、損害賠償額は7千万円(1億−3千万円)で良いと、加害者が主張する場合です。

結論から書きますと遺族が死亡保険金をいくら受け取っていても、その金額分を損害賠償額から控除する事はできませんが、これは「損益相殺」と「保険代位」から説明できます。

(1)損益相殺
損益相殺とは不法行為(今回の場合は交通事故)によって損害賠償請求権を獲得した者が、損害を被った原因と同一の原因によって利益を受けた場合に、その利益の金額を損害賠償額から控除する制度になります。

民法には損益相殺に関する明文の規定はありませんが、損害賠償の制度上当然に認められております。

なぜなら損害賠償の目的は損害を受けた者を、損害を受けなかった場合と同一の地位に回復させる事にありますので、それ以上の利益を受けてはいけないと考えられるからです。

しかし学説や判例は死亡保険金を、損益相殺により控除されるべき利益にあたらず、損害賠償額から控除すべきではないとしておりますが、次のような理由があるからです。

・損益相殺により控除されるべき利益というのは、加害行為と相当因果関係の範囲内で生じたものに限られ、死亡保険金の支払いは加害行為とは別個の、保険契約に基づいてなされるため

・死亡保険金は保険契約によって、それまでに支払われた保険料の対価として支払われるものであるため

・保険会社から死亡保険金が支払われるのは、損害を補填する目的ではないため

(2)保険代位
保険代位とは保険者(保険会社)が遺族に対して、死亡保険金を支払った場合に、遺族が加害者に対して有する損害賠償請求権を、保険者に移転させる制度になります。

つまり死亡保険金を支払った保険者は、支払った死亡保険金の限度において、遺族が加害者に有する損害賠償請求権を取得します。

そのため遺族は受け取った死亡保険金の限度において、加害者に有する損害賠償請求権を失う事になり、結果的に加害者に対して請求できる損害賠償額が、受け取った死亡保険金の分だけ減額されます。

しかし商法は損害保険に対して保険代位を認めておりますが、生命保険に対して保険代位を認めておりませんので、遺族が死亡保険金をいくら受け取っても、損害賠償額から控除する事はできないのです。

以上のように生命保険の死亡保険金は、損益相殺と保険代位の両者が適用されませんので、遺族が先に死亡保険金を受け取っていたとしても、その金額分を損害賠償額から控除する事はできません。

また判例では生命保険契約に付加された特約に基づく、傷害給付金および入院給付金6月11日のブログを参照)についても、損益相殺と保険代位の適用を否定しております。

ですから交通事故で死亡まで至らず入院だけで済み、上記の給付金を被保険者本人が受け取った場合も、その金額分を損害賠償額から控除する事はできません。
posted by FPきむ at 20:24 | 生命保険に加入した後に | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする