2018年01月01日

平成30年(2018年)4月から、労災保険の保険料率が引き下げへ

平成29年(2017年)12月3日の毎日新聞を読んでいたら、労災保険料率下げ方針 子育て拠出 企業負担減1300億円と題した、次のような記事が掲載されておりました。

『厚生労働省は、労働者が業務上の事故で負傷した場合などに備えて企業が支払う労災保険料率を来年度から引き下げ、負担を年約1300億円分削減する方針を固めた。

労災事故の件数が減少しているためだが、子育て支援に新たな費用を拠出する経済界の要請に応える形となる。

経団連の榊原定征会長は11月30日、「人づくり革命」を議論する首相官邸の会議で、政府が求めた子育て支援策への年3000億円の拠出を段階的に引き受ける意向を表明。

条件として労働保険の負担軽減を求め、安倍晋三首相は「検討する」と応じていた。

労働保険には、労災保険と、失業給付に充てる雇用保険の二つがある。来年度は3年に1度の労災保険料率の改定の年に当たり、厚労省は現行の料率0・47%(全業種平均)からの引き下げが可能と判断した。

労使が負担を折半する雇用保険は、今年3月の雇用保険法改正で本年度から3年間、料率を0・2%引き下げ、企業の負担は年約1700億円減った。

来年度からの労災保険の引き下げと合わせれば労働保険全体で年計約3000億円の軽減となり、企業側が子育て支援に拠出する金額と見合う計算になる』

以上のようになりますが、最近は失業率が改善して、人手不足が問題になっているというニュースをよく見かけます。

そのため平成29年(2017年)4月から、雇用保険の保険料率が引き下げされ、従業員と企業が負担する雇用保険の保険料が値下げされたのは、十分に納得できる話だと思います。

しかし労災事故の件数が減少しているため、平成30年(2018年)4月から企業が保険料を負担する、労災保険の保険料率を引き下げするという話には、あまり納得がいきません。

例えば少し前を振り返ってみると、大手広告代理店である電通の女性社員が自殺したのは、残業時間が急増した事により、うつ病が発症したためとして、三田労働基準監督署が労働災害と認定したというニュースがありました。

このように業務における強い心理的負荷により、精神障害を発生して過労自殺、または業務における過重な負荷により、脳や心臓疾患を発症して過労死した方のニュースを、最近でもよく見かけます。

そのためこの記事の中に掲載されているように、労災事故の件数が減少しているとは思えないのです。

また人手不足によって、それぞれの従業員の負担が大きくなれば、労災事故の件数は減少するどころか、逆に増えていくと思うのです。

そこで厚生労働省が作成している「過労死等の現状」を見てみると、業務における過重な負荷により、脳や心臓疾患を発症して労災申請した件数は、ここ10年は700件台後半から900件台前半の間を、行ったり来たりしております。

また業務における強い心理的負荷により、精神障害を発生して労災申請した件数は、右肩上がりで伸びており、平成27年(2015年)度は1,515 件に達しました。

このような統計を見ていると改めて、労災事故の件数が減少しているとは思えないのです。

なお厚生労働省が作成している「平成28年 労働災害発生状況」を見ても、労災事故の件数が減少しているとは思えず、この中には近年の労災事故の発生状況について、次のように記載されております。

・死亡者数は、長期的には減少傾向にあり、平成27年に初めて1,000人を下回り、2年連続で過去最少となった

・休業4日以上の死傷者数は、長期的には減少傾向にあるが、第三次産業の一部の業種で増加傾向が見られるなど、十分な減少傾向にあるとは言えない

このように第三次産業の一部の業種で、増加傾向が見られると記載されていたので、具体的なデータを調べてみると、5年前と比較して陸上貨物運送事業は1.0%増、小売業は2.6%増、社会福祉施設は27.8%増、飲食店は9.5%増になっているようです。

ここに記載されている業種と、人手不足が問題になっている業種は、重なっている部分があるため、やはり人手不足になってくると、それぞれの従業員の負担が大きくなり、病気やケガなどで休業する方が増えるのかもしれません。

こういった状況の中で労災保険の保険料率を引き下げすると、労災保険の保険給付のために使える予算が少なくなるため、必要な保険給付を受けられない方が出てくるのではないでしょうか?

また平成29年(2017年)9月に、財務省が発表した「法人企業統計」によると、企業が得た利益を社内に貯めた「内部留保」が、前年度より7.5%多い406兆2,348億円となり、5年連続で過去最高を更新しました。

こういった状況の中で、子育て支援策への拠出と引き換えに、労災保険の保険料率を引き下げする必要があるのかという、疑問を感じてしまうのです。
posted by FPきむ at 20:22 | 公的保険の最新情報と法改正 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月16日

協会けんぽが健康増進により、保険料率を引き下げする新制度案を公表へ

平成29年(2017年)10月24日のSankeiBizを読んでいたら、健康推進で保険料負担を引き下げ 協会けんぽ、新制度案を公表と題した、次のような記事が掲載されておりました。

『中小企業の従業員や家族ら約3860万人が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)は23日、病気予防や健康づくりの取り組みを健康保険料率に反映する新制度案を公表した。

保険料率は47都道府県支部ごとに決まっており、取り組みが評価された支部の企業、従業員の負担は引き下げられる。保険料率への反映は2020年度以降、段階的に実施する予定。

現在、保険料の一部を75歳以上の後期高齢者医療制度の支援金に充てているが、特定健診(メタボ健診)の受診率や保健指導の実施率向上などで実績を上げた支部はこの負担率を引き下げる。

反対に、実績が上げられなかった支部は負担が大きくなる。過去2年分の実績で試算したところ、22の支部で現行より負担割合が下がった。

現在、協会けんぽの保険料率の全国平均は給与の10.0%。うち後期高齢者医療の支援金負担分が占める割合は2.102%で、ペナルティーとしての負担増は最大0.01%分。

最も評価の高かった島根の場合、試算では1.966%に下がった。保険料は労使折半で、月給28万円の平均的な加入者の場合、本人負担は月1万4000円程度となっている』

以上のようになりますが、会社員の方やその家族が加入する健康保険は、次のような2種類に分かれております。

■全国健康保険協会が運営を行っている「協会けんぽ」
主に中小企業の従業員が「被保険者」となり、その家族は一定の要件を満たすと「被扶養者」になるため、保険料を負担しなくても、保険給付を受けられます。

■健康保険組合が運営を行っている「組合健保」
主に大企業の従業員が「被保険者」となり、その家族は一定の要件を満たすと「被扶養者」になるため、保険料を負担しなくても、保険給付を受けられます。

ただ「月給(賞与)×健康保険の保険料率」により、各人が納付する保険料を算出する点や、労使折半で保険料を納付する点などの、基本的な仕組みは共通しております。

今回の記事はこの二つのうちの、協会けんぽに関するものであり、特定健診(メタボ健診)の受診率や、保健指導の実施率の向上などで、実績を上げた支部(47都道府県にひとつずつ支部がある)については、健康保険の保険料率が引き下げられます。

逆に実績を上げられなかった支部については、健康保険の保険料率が引き上げされるので、アメとムチの両面を持った制度になるようです。

厚生労働省が発表しているデータによると、平成26年(2014年)の特定健診の実施率(受診者数÷対象者数×100)は、組合健保が72.5%もあるのに対して、協会けんぽは43.4%しかありません。

協会けんぽが新制度案を発表したのは、このような組合健保との差を縮めたいという思いが、背景にあるのではないでしょうか?

ただ組合健保の実施率が高いのは、これに加入しているのは大企業が多く、大企業は人事総務部などの中に、健康診断の担当者がいるからだと思うのです。

つまりこの健康診断の担当者が、特定健診の未受診者をしっかりと把握し、また担当者が未受診者に対して、受診を催促するからこそ、実施率が高くなるのです。

その一方で協会けんぽは、主に中小企業が加入しているため、健康診断の担当者を雇うだけの余裕のないところが多いと思います。

そのため特定健診の未受診者を、しっかりと把握しておらず、また担当者が未受診者に対して、受診を催促しないため、実施率が低くなってしまうのです。

このような構造的な問題を解決する仕組みを作らないと、実施率はなかなか上がらないのではないでしょうか?

ところで社会保険制度の中には、事業場の努力を保険料率に反映させているものがあり、それは労災保険(正式な名称は「労働者災害補償保険」)です。

この労災保険は「メリット制」という仕組みにより、個々の事業場の労働災害の多寡に応じて、労災保険率または労災保険料額を変動させております。

つまり労働災害を少なくするように努力した事業所が、報われるようになっているのです。

協会けんぽが始める新制度も個々の事業場ごと、または企業ごとに、保険料率を変える仕組みにした方が良いと思います。

その理由として従業員ごとに保険料率を変える仕組みにすると、管理が大変になってしまうからです。

また各都道府県にある支部ごとに保険料率を変える仕組みにすると、特定健診の実施率を上げようとする、個々の事業場や企業の努力が、報われなくなってしまう可能性があるからです。

つまり狭過ぎず広過ぎでもない範囲で、健康保険の保険料率を変動させていくと、管理がしやすいうえに、効果もあると考えております。
posted by FPきむ at 20:37 | 公的保険の最新情報と法改正 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする