2012年09月08日

保険金の受取人に具体的な氏名を指定しなかった場合の注意点

生命保険の契約者は保険金の受取人を自由に指定でき、また契約後に保険金の受取人を、自由に変更する事もできます。

また保険金の受取人は具体的な氏名を指定する方法だけでなく、被保険者の妻や相続人など、具体的な氏名を指定しない方法も選択できますが、具体的な氏名を指定しない方法を選んだ場合には、次のような点に注意する必要があります。

注:保険契約者、被保険者、保険金受取人の違いについては、7月18日のブログを参照して下さい。

(1)被保険者の妻と指定した場合
保険金の受取人を妻と指定した状態で離婚し、それを変更しないうちに被保険者が死亡した場合ですが、再婚していれば新しい妻が、保険金の受取人になります。

また離婚した後に再婚していなければ、被保険者(夫)の相続人(夫の子供、父母、兄弟姉妹)が、保険金の受取人になります。

問題は例えば「妻・鈴木恵子」と指定した状態で離婚し、それを変更しないうちに被保険者が死亡した場合ですが、このような場合には妻が優先されるのか、それとも鈴木恵子という個人名が優先されるのでしょうか?

最高裁判所まで争われた判例によると、この受取人の表示は妻である事を保険金の受取人の条件にしたものではなく、鈴木恵子個人を指定したものであるとして、最高裁判所は元妻である鈴木恵子さんに保険金の支払いを認めました。

この判決は冒頭のように、保険金の受取人の変更は自由にできるにもかかわらず、それをしなかったという事情も考慮されているようです。

ですからこのようなトラブルにならないため生命保険の契約者は、保険金の受取人がどのようになっているのかを、保険証券(2月6日のブログを参照)などを使い、離婚後に確認した方が良いのです。

(2)被保険者の相続人と指定した場合
次に保険金の受取人を相続人と指定した場合ですが、この相続人は保険金の受取人を指定した時点の相続人とするのか、それとも被保険者が死亡した時点の相続人とするのか、意見が分かれております。

ただ多くの学説や判例は、被保険者が死亡した時点の相続人としておりますので、裁判などではこちらが採用される可能性が高いのです。

また相続人が複数いる場合には、相続人が平等に保険金を受け取るべきだという考え方と、次のような民法900条による相続人の順位で、法定相続分に従って受け取るべきだという考え方があります。

・第1順位の相続人
被相続人に子供がいる場合には、子供と配偶者が相続人になり、法定相続分は子供が2分の1、配偶者が2分の1になりますが、子供が複数いる場合には、2分の1を子供の人数で等分します。

・第2順位の相続人
被相続人に子供がいない場合には、被相続人の父母と配偶者が相続人になりますが、法定相続分は父母が3分の1、配偶者が3分の2になります。

・第3順位の相続人
被相続人に子供がなく父母も死亡している場合には、被相続人の兄弟姉妹と配偶者が相続人になり、法定相続分は兄弟姉妹が4分の1、配偶者が4分の3になりますが、兄弟姉妹が複数いる場合には、4分の1を兄弟姉妹の人数で等分します。

注:被相続人とは死亡した人、相続人とは被相続人の財産を受け継ぐ人の事を示しております。

これに関して多くの学説や判例は、上記のような法定相続人の順位で、法定相続分に従って受け取るべきだという考え方を採用しております。

ただ「保険金の受取人が2人以上いる時は代表者を定め、その代表者が保険金の受取人らを代理して保険金を請求する」と、保険約款(5月20日のブログを参照)に規定されている場合が多いですので、各相続人が単独で保険金を請求する事はできません。

ここでの問題は例えば3人の兄弟姉妹が相続人となり、そのうちの1人が行方不明になっている場合ですが、行方不明者は除いて、2人の兄弟姉妹で等分してしまうという訳にはいきません。

しかし行方不明者を探したり、自分から現れるのを待っていたりすると時効(8月11日のブログを参照)により、保険金を請求する権利が消滅してしまう可能性があります。

ですからこのような場合には家庭裁判所に請求して、「不在者の財産の管理人」を選任してもらいますが、この不在者の財産の管理人と2人の兄弟姉妹が、保険金を請求する代表者を定めます。

つまり行方不明になっている兄弟姉妹の保険金は、不在者の財産の管理人がいったん預かる事になりますが、その後に行方不明者が死亡している事が判明した場合、法律的には次のように処理されます。

■行方不明者が死亡したのは被保険者より前で子供がいる場合
行方不明者の子供が代襲相続により、保険金の請求権を取得しますが、子供が複数いる場合には、子供の人数で等分した割合で、それぞれの子供が保険金の請求権を取得します。

■行方不明者が死亡したのは被保険者より前で子供がいない場合
生存している2人の兄弟姉妹だけで保険金を等分する事になりますので、不在者の財産の管理人から2人の兄弟姉妹に、それぞれの割合だけ保険金が引き渡されます。

■行方不明者が死亡したのは被保険者より後の場合
保険金の請求権はいったん行方不明者に帰属し、その行方不明者の相続人が相続により、上記の民法900条による相続人の順位で、法定相続分に従って保険金の請求権を取得します。

もしいつまで経っても行方不明者の生死が明らかにならない場合、失踪宣告(2月13日のブログを参照)により死亡したとみなしたり、認定したりする事になりますが、その後には上記の死亡している事が判明した場合と同様に、法律上の手続きを進めていきます。
posted by FPきむ at 20:35 | 民法と生命保険 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月28日

遺贈や念書による保険金の受取人の変更

「遺贈」とは遺言者(与える側)の財産の全部または一部を、受遺者(受け取る側)の意思とは無関係に、遺言によって贈与する事を示しますが、遺贈には次のように2種類があります。

【包括遺贈】
「遺産のすべてを遺贈する」、「遺産の3分の1を遺贈する」といった例のように、遺産の全部または一定の割合を遺贈するものを示します。

【特定遺贈】
「3,000万円を遺贈する」、「土地建物を遺贈する」といった例のように、遺産のうち特定の財産を遺贈するものを示します。

また「念書」とは形式として誓約書に近いもので、一方がもう一方に対して、約束する内容を記載して差し出すものです。

通常の「契約書」は合意した内容を書面にし、それを2通作成してお互いが署名(または記名)捺印しますが、念書は差し出す側の署名(または記名)捺印のみになります。

生命保険契約で遺贈や念書が問題となるのは、保険契約者(例えば夫)が保険金の受取人として指定されていた者(例えば妻や子供)の同意なしに、「私が死亡したら保険金を借金の債権者であるAさんに支払って下さい」という遺言を残したり、念書をAさんに渡したりしてから、死亡した場合です。

保険契約者以外を保険金の受取人に指定する契約、いわゆる「他人のためにする生命保険契約」は、第三者のためにする契約(民法527条)の一種になります。

民法上の第三者のためにする契約は、第三者の権利を変更または消滅させる事ができない(民法528条)のに対し、他人のためにする生命保険契約は、保険契約者による保険金の受取人の変更が自由に認められておりますが、その他にも次のような事が認められております。

【法人を保険金の受取人にできる】
株式会社や有限会社などの法人を、保険金の受取人に指定できます。

【受取人は1人である必要はない】
子供が生まれた場合に、妻と子供を受取人に指定できます。

【受取人の承諾は不要】
契約当時の妻を受取人に指定していた保険契約者である夫が、その後離婚し再婚した妻を受取人に指定する場合には、元妻の承諾は必要ありません。

ただ受取人を自由に変更できるといっても、保険会社は誰が受取人かをわかっていなければ、保険金をスムーズに支払う事ができません。

そこで受取人を変更する際には、保険会社が指定する名義変更請求書と保険証券を保険会社に提出し、保険証券に裏書をしてもらいます。

しかしこのように保険会社への通知や承認の裏書が必要とされていても、受取人の変更の効力はこれらの手続きによって発生するのではなく、保険会社が二重払いを防ぐための、対抗要件であると解されております。

ですから保険会社はこれらの手続きが終了しない間は、旧受取人に保険金を支払えば責任を免れる事になり、新受取人は旧受取人に対し、保険会社から支払われた保険金の、引き渡しを求めなければなりません。

それでは話題を戻し、遺贈や念書による保険金の受取人の変更は認められるかですが、他人のためにする生命保険契約は、保険金の受取人の変更が自由に認められておりますので、遺贈や念書による保険金の受取人の変更も、多くの学説や判例で認められております。

ただ保険会社への通知や承認の裏書がない場合、遺贈や念書により保険金の受取人として指定された方は、保険会社に直接保険金を請求できず、旧受取人に対して保険金を請求する事になります。

また例えば借金の債権者が遺贈や念書により新しい受取人に指定され、その保険金の金額が借金の金額を上回る場合、旧受取人に請求できるのは借金の金額までになり、残余の保険金は旧受取人が受け取る事になります。
posted by FPきむ at 20:10 | 民法と生命保険 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする